荷重をかけながらダイヤモンド圧子で試料表面を引っかき、膜の密着性や傷つきやすさの評価を行います。
1、実験方法
DLC膜厚による影響の比較するため、同様の中間層を用いて表1に示すサンプルの評価
を行った。
表1 サンプルの詳細 | |||
ディスク名 |
膜種 |
膜厚 |
基材材質 |
0.5μm-DLC |
a-C:H |
0.5 μm |
SUJ2 |
1μm-DLC |
a-C:H |
0.5 μm |
SUJ2 |
4m-DLC |
a-C:H |
0.5 μm |
SUJ2 |
Scratch Testerを用いてスクラッチ試験を行った。圧子は先端曲率半径200μmのダイヤモンド圧子を用いた。試験条件を以下に示す。
初期荷重 |
: 0.9 N |
負荷速度 |
: 100 N/min |
移動速度 |
: 10 mm/min |
AEセンサー感度 |
: 9 |
表2に試験時の環境を記す。
表 2:試験時の環境 | |
試験温度 |
試験湿度 |
23~25℃ |
17~19% |
23~24℃ |
20~22% |
青線:AE(アコースティックエミッション) →チッピングやクラック等の音に反応する。
紫線:Ft(摩擦力) →膜と基材で摩擦力が異なる場合、剥離が起こると傾きが変化する。
赤線:Mu(摩擦係数) → 膜・基材とダイヤモンド圧子との摩擦係数。(垂直荷重と摩擦力から算 出)
2、結果と考察
図 1 に 0.5μm-DLC(0.5μm の a-C:H 膜)のスクラッチ痕の状態を示す。
まず 13.93N 付近からスクラッチ痕エッジ部にクラック(ヒビ)が観察され始め、次に
21.07N 付近から同じくスクラッチ痕エッジ部にチッピング(カケ)が観察され始めた。そ
の後、42.34N 付近から膜のはく離が観察され始めた。なおはく離ポイントと摩擦係数、摩
擦力の変化には対応関係が見られた。
(a) 13.93N Edge Crack | (b) 21.07N Edge Chipping |
(c) 42.34N Crack | |
図1 0.5μm-DLC(0.5μm の a-C:H 膜)のスクラッチ痕の状態 |
図2に 1μm-DLC(1μm の a-C:H 膜)のスクラッチ痕の状態を示す。
まず 14.09N 付近からスクラッチ痕エッジ部にクラック(ヒビ)が観察され始め、次に
20.22N 付近から同じくスクラッチ痕エッジ部にチッピング(カケ)が観察され始めた。そ
の後、43.35N 付近から膜のはく離が観察され始めた。なおはく離ポイントと摩擦係数、摩
擦力の変化には対応関係が見られた。
(a) 14.09N Edge Crack | (b) 20.22N Edge Chipping |
(c) 43.35N Delamination | |
図2 1μm-DLC(1μmのa-C:H膜)のスクラッチ痕の状態 |
図3に 4μm-DLC(4μm の a-C:H 膜)のスクラッチ痕の状態を示す。
まず 20.79N 付近からスクラッチ痕エッジ部にクラック(ヒビ)が観察され始め、次に
24.13N 付近から同じくスクラッチ痕エッジ部に他サンプルよりも大きなチッピング(カケ)
が観察され始めた。その後、36.28N 付近から膜のはく離が観察され始めた。なおはく離ポ
イントと摩擦係数、摩擦力の変化には対応関係が見られた。
(a) 20.79N Edge Crack | (b) 24.13N Edge Chipping |
(c) 36.28N Delamination | |
図3 4μm-DLC(4μmのa-C:H膜)のスクラッチ痕の状態 |
表3に各種 DLC の観察ポイント臨界荷重の比較を示す。ただしスクラッチ痕の状態がそれぞれ異なるので、一概に比較することはできない。
はく離荷重でのみ比較した場合、膜厚が1μm以上になるとはく離臨界荷重が低下する傾向があると考えらえる。
膜の内部応力が増加したためと推察され、スクラッチ試験が膜の内部応力の影響を大きく受けていると考えられる。
表3 臨界荷重の比較 | |||||
単位:[N] |
|||||
サンプル名 | 観察ポイント名 | 1 回目 | 2 回目 | 3 回目 | 平 均 |
0.5μm-DLC | Crack | 13.93 | 11.54 | 11.48 | 12.32 |
Edge Chipping | 21.07 | 21.18 | 21.47 | 21.24 | |
Delamination | 42.34 | 43.06 | 42.55 | 42.65 | |
1μm-DLC | Crack | 14.09 | 11.54 | 12.68 | 12.77 |
Edge Chipping | 20.22 | 15.34 | 14.78 | 16.78 | |
Delamination | 43.35 | 41.93 | 42.67 | 42.65 |